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2010.02.09

翻訳のススメ

短期的に考えるとあまり役に立たちませんが、長期的には重要であろうということと、単純に知的好奇心を喚起されるので、翻訳家の山岡洋一氏のコラムをご紹介します。

古典の翻訳がさっぱりわからなかった人へ

何をいっているかというと、アダムスミスの「国富論」などの翻訳を読んでさっぱりわからなかったとすれば、それは翻訳の仕方が悪いのかもしれない、ということです。たとえば、

われわれが食事を期待するのは、肉屋や酒屋やパン屋の慈悲心からではなく、彼ら自身の利害にたいする配慮からである。
(水田洋監訳・杉山忠平訳『国富論』、岩波文庫、2002年(2刷)、第1巻39ページ)

It is not from the benevolence of the butcher, the brewer, or the baker, that we expect our dinner, but from their regard to their own interest.

この日本語訳を読んでパッと意味がわかるか、と聞かれたとします。なんとなく、善意ではなくて利害が大事なのか、ということが伝わってくるけど、それでいいのかと。ちなみに、山岡氏によると、いまいち意味がよくわからない原因は「Expect」を英和辞典どおりに「期待する」と訳しているからなのだそうです。

日本語で「期待」といってしまうと、「よい結果を待ち望む」という意味になるので、この場では訳語としてふさわしくないそうです。つまり、「我々が食事を期待するのは」とくれば、当然「いい匂いがしたからだ。」などの文章が後に続くはずですね。ところが、「我々が食事を期待するのは肉屋や酒屋やパン屋の慈悲心からではなく、」とくるので、わけがわからなくなる、ということです。

Expectは英英辞典だと「あり得る、もしくは高い確率で起こると想定する(To consider likely or certain)」という意味が書いてありますので、ここでは「われわれが食事を当然あるものと想定しているのは、肉屋や酒屋やパン屋の慈悲心からではなく、彼ら自身の利害にたいする配慮からである。」と解釈するべきなのです。

さらにこれを原文の意図を伝えるべくもっと自然な日本語にすると、

「我々が食事の心配をしなくて済むのは、肉屋や酒屋やパン屋が慈悲深いからではなく、彼らが自分達の利益を追求しているからである。」

ちなみに、これは僕が訳しましたのでクオリティは保障しませんが、多分これがアダムスミスが言わんとしていることかと。ということで、どうでしょうか、元の翻訳にくらべると結構すんなり意味が伝わってくるのではないでしょうか。

とにかくこっちで暮らしていると、「なんとなく意味はわかるけど、正確なところは自信ない。」という文章によく出会います。スピーキングやリスニングに比べればリーディングは相対的にはまだましなのですが、それでも全然満足できるレベルではありません。

一方、わかんない文章に出会ったときにいちいちこんなに深く考えている時間がないのも事実でして、「よくわかんない部分はとりあえずほうっておく。」という姿勢もまた重要かと。ただ長期的には母国語と同じレベルは無理にしても、それなりにリーディングのレベルもあげたいなーと思って決意を新たにするのでした。

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