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2010.05.08

ケインズの言葉を考える

先日のマクロ経済学の授業は金融市場についてでした。なかなか面白かったので、ちょっと習ったことをベースに考えてみました。もちろん、僕は経済学に関してはど素人なので、間違っていたらご指摘ください。

ケインズのあまりにも有名な言葉。

長期的には我々は皆死んでいる。

この意味はしばしば下記のように解釈されます。

「今現在の不況期を乗り越えることが大事なので、国債を発行してでも財政支出を増やすべき。長期的な累積赤字を気にして、今大不況になって失業してみんなが死んじゃったら元も子もない。」

グーグルで検索してみたら、たいていこの文脈で捉えられています。ですが、僕が調べたところ、多分ケインズは元々違う意図で使っただろうと思うのです。ケインズがこの言葉を使ったのは「貨幣改革論」という本で、彼がこの本で取り上げてるのはインフレ/デフレの弊害と原因、それに物価変動をどのようにコントロールするか、というテーマなのです。

インフレ/デフレが経済に悪影響を与えることは言うまでもありません。インフレが続けば、貯金は目減りするでしょうし、デフレが続けば企業収益が悪化して失業が増えます。それがさらに企業収益を悪化させる、いわゆるデフレスパイラル。ほかにもいっぱいありますけど、その詳細は長くなるので割愛します。

で、インフレやデフレはどうすれば避けられるのでしょうか?

当時の貨幣数量説によれば、物価は中央銀行が供給するマネーサプライによって決まるので、このマネーサプライを一定に保つことが重要である、という結論が導かれます。つまり、経済が1%成長したら、その取引に必要とされるお札や貨幣を1%増やせば、物価は変わらない。逆に経済規模が一定だとすると、マネーサプライを10%増やしたら、物価も10%あがってインフレになる。逆だとデフレ。

ちなみに、マネーサプライが物価と比例関係にあることは、実証研究でも確かめられているそうです。

Fwkrittenmacrofig16_011_2
(160カ国を30年のスケールで見たマネーサプライとインフレ。強い相関関係がある。)

ところが、ケインズによると、この結論は「貨幣の形態での購買力に対する需要および貨幣の平均使用回数が所与ならば完全に正しい」。分かりやすく言うと、ある経済規模に対応して”取引するのに必要な貨幣の量”というものがあり、その貨幣が例えば”1年間に使いまわされる回数”、この値が一定ならば正しい、ということですね。

そして、これらの値はその時々で減ったり増えたりするのですが、基本的に社会構造が大きく変わらないかぎり、平均的に特定の値に収斂します。別の言葉で言うと、この理論は長期でみると成り立つけど、短期的にはもっといろんな要因が影響して物価は変動するだろう、ということが言いたいのです。

とくに彼は

1.人々の予想

2.金融機関

に注目します。つまり、みんながインフレになると予想すると、お金を借りて消費しようとするし、企業も生産活動を拡大するので実際にインフレになる。デフレになると予想すると逆のことがおきる。つまり、仮にマネーサプライが安定してても、何かのきっかけでちょっと物価が変わると、それによって大きな変動につながりかねない、ということなのですね。

もちろん、金融機関の行動も物価に大きく影響します。なぜなら、みんながお金を銀行にあずけて、それを金融機関が貸し出して、市中をめぐりめぐって金融機関にもどってきたらまた貸し出して、ということが行われているからです。この過程で、政府が元々刷ったお金が最終的には何倍にもなる、いわゆる信用創造が行われます。だから、金融機関の行動やレギュレーションによっても物価が変わってきます。

なお、短期的な物価がマネーサプライに連動していないのも、実証研究で確かめられているそうです。つまり2~3年とかのスパンで見ると上の図みたいなきれいな相関関係がでない。

つまり長期でみれば、中央銀行はほとんど何もしなくてもよいように見えるが、実際には短期で物価は変動している。よって積極的に介入して(金融機関の規制や人々の予想の誘導)、物価の安定を図る必要がある、ということが言いたかったのですね。

ということで、冒頭の有名なフレーズのみを捉えて「ケインズは不況期には、累積債務を気にせずに政府支出を増やせといっている」といったら、彼は多分天国で「いや、ここではそういうことが言いたかったんじゃないんだけど・・・」とぼやいているのではないでしょうか。

もっとも、ケインズが短期的な安定の重要性を強調したのは事実であり、その側面のみを捉えればあながち間違いとはいえないかもしれません。ただ、ケインズは短期の為に長期を犠牲にすべきだとは、ここでは一言もいっておらずむしろ短期的な安定を図ることで長期的な成長が実現されると考えたのではないでしょうか。

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コメント

長期的にはみんな、じいちゃんばあちゃんになって、死んじゃってるってことじゃないの?

投稿: kin | 2010.05.09 05時11分

えー、そういう意味なのかなぁ。今度ブリティッシュのやつに原典をみせて聞いてみよう。

投稿: Shuji | 2010.05.09 22時51分

一応本業だけどうっかり間違えたこと書いてたら超ごめんなさい。でもたぶん、ブログ本文の解釈であってると思います。

ケインズの原典を読んでないのでケインズ本人の意図はわからないけど、戦後に現れた「ケインジアン」と呼ばれたり自称してたりする人たちがこの言葉を引用するときは、「長期的には一般均衡の世界が成立してしまうから財政政策や金融政策には短期的にしか効果がない」という学説に対して、とはいえ「長期」というのは人の寿命くらい長いスパンの話かもしれないので、短期的な政策に現実社会の上で意味がないとはいえないよ、っていう感じだと思います。少なくとも私が学部で習ったマクロの先生はそう言うことを言ってました。

投稿: こん | 2010.05.11 11時09分

そうなんだ。でももし教授が「長期=人の寿命」といったのなら、それも少し極端のような気もするけどね~。今日ならったところだと、アベレッジでみれば戦後の不況の長期ってアベレッジで10ヶ月ぐらいだといってたし、ハイパーインフレも1~2年で終わってるから、4、5年で長期トレンドに収束するんじゃない?

投稿: ねづ | 2010.05.11 15時15分

長期っていうのは色々な調整が終わっている市場のことで、完全雇用が達成されたあとの市場のことでしょ。完全雇用が達成された後の市場に関する議論をいくらしたって現実的な意味はあまりない。

投稿: | 2015.08.19 23時11分


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投稿: Document Reviewing Help | 2017.04.03 21時01分

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