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2010.11.30

Wikileaksの外交公電暴露

”米国外交上の9/11”とも言われる外交公電の流出内容が今日明らかになりました。

つい先日イラク、アフガン関係の外交情報暴露で世界的な注目を集めたWikileaksによるものです。本内容は今年はじめに入手されたもので、米紙ニューヨーク・タイムズ、英紙ガーディアン、仏紙ルモンド、独ニュース週刊誌シュピーゲルとスペイン紙パイスが内容をシェアしています。

Img00057201011291158

なお、この五紙とWikileaksによって、情報提供者や特定の個人に生命の危険が及んだり、現在遂行中の軍事ミッションに関わると判断された公電は除外されたそうです。流出情報の日付は1969年から本年2月まで。

僕が買ったのはガーディアンですが、同紙は記事の概要を事前にアメリカ政府に通告したそうです。それに対してアメリカ政府は当然のことながら否定も肯定もせず、警告のみを発しました。

とまぁ、記事で書くとふーんという感じですが、このトップページの公電は生々しいです。


機密 米国市民のみ/SIPDIS(内部LAN)

表題 情報収集と報告の要請 / 国際連合

本文

以下の情報を可能な限り収集し、報告すること

インターネットまたはイントラネットのハンドル名、メールアドレス、ウェブサイト、クレジットカードナンバー、航空マイレージのアカウントナンバー、スケジュール

D1. 国連安全保障理事会の常任理事国理事の経歴、生体認証情報、本国との関係について

E1. 国連のリーダーシップの状況について。事務総長の管理および意思決定のスタイル。国連幹部の経歴と生体認証情報

H4. 国連の高官およびそのスタッフによって使われる情報システムのネットワーク、技術、物理的な構成、予定されているアップグレード、通信設備等について。商用および個人用に使用されているVIPネットワークの詳細情報。アップデート、セキュリティ関連、パスワード、個人の暗号キーを含む

※下線はガーディアンによってハイライトされた部分


先ほどWikileaksのサイトをみてみましたが、現在公表されている公電は流出した25万通のうちまだ243とのことでした。今後数ヶ月かけて順次公開予定。流出分には東京との公電も5,697通含まれており、個人的には日本関係の公電を早く読んでみたいです。

今回のガーディアンの特集は主に国連に対する外交/スパイ?活動と、中東においてアメリカがイランの核開発に対して周辺諸国と情報交換し圧力をかけたり、逆にイランを警戒するサウジアラビアから介入要請を受けていたことに注目しています。

Img00059201011291226

これは国連に対する外交/スパイ?活動のページです。

Img00060201011291227

これは中東情勢のページ。

さすがは左派高級紙というべきか、一部マスコミが面白おかしく書き立てている各国首脳に対する米国外交官たちの中傷はそこそこに、国際情勢と米国の人権侵害や非合法と思われる外交手法にフォーカスしています。同紙のディベート欄では

メディアの仕事は政府の恥を隠蔽することではない

「このリークは公益にかなうもので、特定の個人を危険にさらすことは一切ない」

と主張しています。さて、問題はこれが本当に公益にかなうのかどうなのか。僕もこの手の流出事件をこれまで真剣に考える機会がなかったので、これから噴出してくる賛否両論をじっくり検討して、自分なりの意見をまとめたいと思います。

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おまけ: ふと思ったんですけど、同じく高級紙を自認しているTimes紙の記者達はどんな気持ちで今日のガーディアンを読んだんでしょう。

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2010.11.29

現代の兵糧攻め

「この世界は”変わらない”ことが好きなんだよ」

とは僕が今受けている国際資本の教授の言葉。今日テストの息抜きに色々調べていら、この箴言が当てはまる事例がありましたので、ご紹介したいと思います。1979年、ソ連はアフガニスタンに侵攻しました。共産政権に対して、イスラム原理主義者の氾濫が各地で相次ぎ、武力で押さえ込もうとしたのです。

Evstafievafghanapcpassesrussian

アメリカはこれに反発し、パキスタン経由でCIAが資金援助を行います。資金提供を受けたひとりが、あのアルカイーダのウサマ・ビン・ラディンであり、これがイスラム過激派が今もアフガニスタンとパキスタンの国境領域を活動拠点にしている理由です。

さらにアメリカのカーター大統領は、ソ連を兵糧攻めにしてやれということで、1980年に800万トン以上の穀物輸出を禁止しました。この結果何が起こったかというと、みなさんご想像のとおりです。

カナダやオーストラリア、アルゼンチンといった、中にはアメリカの同盟国であるはずの国までもがこれ幸いとソ連への輸出を増やしたのです。さらに、突然行き場を失った大量の小麦やとうもろこしの価格は当然下落します。当時アメリカ中がインフレに苦しんでいたところですから、被害を被った農民はたまったものではなかったでしょう。

結局この不人気の兵糧攻めは翌年4月レーガン大統領に代わったところで撤廃されました。アメリカは1970年代に3回兵糧攻めを試みていますが、結局どれも当初の目的を達せず、国益を損なっただけだという結論に至っています。

では万が一、多国間で協力して禁輸をすればこの兵糧攻めは成功したのでしょうか。歴史上そう考えて実行した人がいます。ナポレオンは1806年に大陸封鎖例をだし、イギリスとの通商を禁じました。当時フランスに従属していたヨーロッパ各国が参加しました。

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大陸封鎖令に参加した諸国

もちろんこの政策は大失敗。まずスウェーデンが離反、ポルトガルが従わない。当初は従っていたロシアも効果がないとみるとみるや通商を再開します。フランス商人ですら、商売先を制限されて憤懣やるかたなし。この大陸封鎖令がナポレオンの没落の大きな要因だったといわれるゆえんです。

レアアースや原油で禁輸が外交上の武器となるのに、食料で成立しないのはなぜか。理由は至極当たり前で、食料はどこでも生産できるからです。この世界は広く、北半球と南半球で季節が逆転し、小麦だったら春小麦と冬小麦がとれます。

食糧安全保障を理由に国内農業の保護を訴える論もありますが、論理的に考えても歴史上の事例をみても、日本が国際的な兵糧攻めにあって苦しむというのは杞憂でしょう。むしろ食料自給率100%の方が天候不順や疫病(口蹄疫の事例をみても)のリスクにさらされるのでよっぽど危険です。世界中で不作というのはまず考えられないため、多様な供給経路を確保するほうがリスク管理としては正しいでしょう。

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2010.11.26

「起業」や「戦略」の授業の悩み

アントレプレナーシップ(起業、略してアントレ)や戦略の授業の悩みは、一般論は教わるものの「個別企業に関してはケースバイケース」という結論に落ち着いてしまうことでしょうか。

僕が今学期受けたアントレの授業も消化不良気味。「多くの企業が中小企業のままスタックしてしまうのはなぜか」という問題設定はよかったものの、結局「じゃあどうすればいいの?」という問いに対する明確な回答は得られないように思いました。

一応授業の結論としては、

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「1.キャッシュが足りない、2.適切なマネージャーが足りない。この二つのケースがほとんどでござる」という話でした。うーむ、10週間かけて結論そこかい!と思わなくもないです。つまるところは中小企業が成長できるかは、「野心的で有能かつ人脈のある経営者がいるかどうか」と「キャッシュがあるかどうか」にかかっている、という話ですからね。何かすごい当たり前なんですけど・・・。

ま、もともと戦略や起業を”学ぶ”というのが不適切なのかもしれません。例えばある織物屋さんがあって、「おい、お前のところは金物の技術力があるから自動車でも作ったらどうだ」なんていったらクレイジーなわけで、どんな教科書を読んでもそんな戦略はでてこないでしょう。しかし、それが現在のトヨタなわけです。

というわけで、成功を収める起業家になるかどうかはMBAと関係ないし(良くも悪くも作用しない)、アントレプレナーシップは学ぶものではない、という個人的な確信を新たにしたのでした。

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2010.11.24

教育の効果について

先日キャンパスビジットにいらっしゃった方とお話し、さらにその夜は「School of Rock」がテレビでやってたので見てしまい、教育について考えるいいきっかけになりました。

School_of_rock
(2003年 3流ロックシンガーが厳格な学校に代用教員として忍び込み子供達とロックバンドを結成する。少しありきたりなストーリーですが、主演のジャックブラックの演技がいい味出してて楽しめます)

また、キャンパスビジットをしている方から伺ったのが「MBAの授業で今後最も役に立つ(役に立ちそうなもの)は何か」というご質問。そういえば、僕も受験生時代は似たような質問をしてました。

MBAを履修された方々が大抵おっしゃるのが「授業で習ったハードスキルはやがて忘れる。重要なのはソフトスキル」という回答です。確かに僕も高校時代にやった三角関数なんて名前ぐらいしか覚えてないですし、大学時代に習った法律もほとんど忘れました。恐らく今勉強していることの大半は5年、10年すれば忘却の彼方でしょう。

しかし、かといって忘れさられた「知識」が僕に何の影響も与えていなかったかというと、そんなこともないだろうと思うのです。法律学的な発想や、学んだ概念は僕の今の判断方法や生き方に何らかの影響を与えているでしょう(これを包含してソフトスキルと称するのかもしれませんが)。

MBAは法科大学院と同じように専門教育と位置づけられています。ゆえに、その後のキャリアにおいて直接的に有用であることが求められ、その有効性をめぐっては議論がまま起こります(代表的なのはヘンリー・ミンツバーク「MBAが会社を滅ぼす」)。

個人的にはこのような議論においてMBAは過大評価されすぎで、しょせん2年で管理職用の一般教養を多少つけただけですから、総体的には社会にそれほどのインパクトを与えないのではと考えています。大抵の卒業生は弁護士のような専門職でも、ロケットエンジニアのような技術職でもないですし。

ただ、一人の留学を志した身として思うのです。ここで学んだことが即物的に役に立つことは恐らくないものの、ソフトやハードという区分を超えて、この経験と知識が僕の新たな一部となり、これまでの考え方や生き方を不可逆に変えることでしょう。このことによって別に僕の収入が増えるわけではないので、こういうことがつまりは教育のお金で図れない価値なのかなぁ、とそんなことを考えました。

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おまけ: ちなみに自衛隊を「暴力装置」と呼んだことを野党が問題視していますが、政治学をかじった身としては大学時代に普通にこの言葉を使っていたため、当初は何が問題なのか全然わかりませんでした。

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2010.11.22

メルコスールのケース

夏にちょっと関わったプロジェクトのテーマでもあったのですが、今日はメルコスールという南米諸国の貿易協定(1991年開始)について取り上げてみたいと思います。地域経済協定といえば、もちろんEUが最も有名ですが、NAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコ)もありますし、ASEAN FTA(進行中)など地域自由貿易協定は結構あります。

メルコスールの加盟国は以下のとおりで、ほぼ南米全部といっていいでしょう。原則として域内の貿易では関税が免除されます。

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しかし、地域貿易協定には落とし穴があり、これによって国が損をする可能性があるのです。具体的な事例をあげましょう。

例えばアルゼンチンでは域外からの輸入車には関税が35%かかり、さらにこの値段に付加価値税が21%どんとのっかってきますので、輸入車はお値段で圧倒的に不利になります。というか、一部の高級車以外まず輸入車は売れません(2010年 税金の計算が間違っていたらおしえてください)

残る選択肢は域内のどこかで生産された車を買うしかないのですが、果たしてこれが国民にとってよいことなのでしょうか?地域貿易協定によって損をするケースは下記のとおりです。

Chart

例えば、仮にアルゼンチン国民が協定前は200万円(うち100万円が税金)でEU産の車を買っていたとしましょう。しかし、関税撤廃によって、ブラジル産の同等の車が190万円になったとすれば、みんなそちらを買います。しかし、実際にはブラジルの相対的に割高な車を買っているに過ぎず、アルゼンチン政府の関税収入が減りますから、アルゼンチンの国全体としてみれば、損をしているわけです。

実際に世界銀行は1996年にメルコスールの協定国は域内の”割高な商品”を買っていることを指摘しました。この内容が事前にリークされ、参加国、特にブラジルは世銀にレポートをリリースしないようにプレッシャーをかけましたが、結局レポートの発表は遅延したものの最終的に公開されました。

もちろん地域貿易協定によって良い結果をもたらした部分もあり、全てが悪いと断じることはできません。しかし自由貿易と比較すると”歪み”の発生しやすいのが地域貿易協定であり、次善の策であることは認識しておくべきでしょう。

日本もFTAやTPPの話が今盛んになっていますが、こういうときこそ否定派も推進派も、過去の事例と客観的なデータに基づき、冷静に判断をくだすべきでしょう。官庁の基礎データがばらばらになっているようでは話になりません。例えば「TPPで日本農業が滅ぶ」との主張もありますが、どのような根拠(データ)や論理に基づいているのか、例えば1991年の牛肉の自由化(=関税制度の導入)のときに日本の畜産がどういう影響を受けたのか。もっとわかりすく専門家やメディアの方々が問題点を深堀してくれたらなぁ、と思います。

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2010.11.20

自由貿易の夢

経済学的には「自由貿易は全ての国にメリットをもたらす」ということになっております。労働力が豊富な国では労働集約的な産業が行われ、技術力の高い国でハイテク製品が生産され、それぞれの国民が最も安く製品を手にすることができます(比較優位の法則)。

しかし、実際には輸入品によって駆逐される産業が政治力を駆使し、自由貿易は成立しません。先進国では農業が保護され、発展途上国では製造業が保護される傾向にあります。しかしそれでも、第二次世界大戦以降、各国は保護貿易が大戦の一因であったとの認識を持ち、貿易障壁の撤廃に勤めて来ました。

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アメリカの平均関税率 Principles of Economics by Libby Rittenberg, Timothy Tregarthen

一方で多国間交渉は合意に至ることが非常に難しく、時間もかかります。例えば、1986年に始まったGATTウルグアイラウンドは、交渉開始から7年の時間を費やし、ようやく400ページの合意基本文書と22,000ページの詳細規定に至りました。

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「オファーに対するカウンターオファー、脅しに対する脅し、何千時間にも及ぶ退屈な会議は練達の外交官でも起きていることが不可能だった」 -ポール・クルーグマン

当初アメリカがもくろんだ「2000年までに農業分野の完全自由化」は果たせず、経済学者が期待したほどの関税障壁の撤廃は行われませんでした。しかしそれでも各国の悪名高いいくつかの制度が縮減されました。日本の農産物の数量割り当て輸入制度、EUの巨額の輸出補助金、アメリカの繊維産業の数量割り当て輸入制度などです。

また、ウルグアイラウンドで合意した常設機関の設立はWTO(世界貿易機関 1995)として結実しました。特にWTOに設けられた紛争解決機関はこの手の国際機構としては珍しく機能しており(当初は大国が無視するものと思われていた)、全体として一定の成果を収めたといっていいでしょう。

なお、WTOには反グローバリゼーション(多国籍企業による発展途上国の資源収奪、環境破壊、労働収奪、あるいは先進国の非熟練労働者の雇用喪失に対する反対運動等)のデモが常につきまとっており、時に流血を伴います。

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1999年 バトル・オブ・シアトル 新ラウンドの開始に抗議

さらなる関税障壁の撤廃を目指して2001年にドーハ・ラウンドが開始されましたが、こちらは農業の自由化を望むアメリカ、それに抵抗するEUと日本、特別保護を望む発展途上国の間で完全にスタックし、2010年現在合意に至っておりません。

近年では各国とも時間と手間のかかる多国間協定を避け、次善の策として二国間協定(FTA等)や地域協定(EU、TPP等)を進めようとしておりますが、これが果たして参加国の利益となるのか、かつてのブロック経済化のような副作用を伴わないのか、次回以降はそこらへんをみていこうと思います。

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2010.11.19

TPPの受益者は名もなき庶民(投稿再掲)

アゴラというサイトに投稿した記事です。うーむ、やっぱり「である」調だと違和感がありますね。なお、補足いたしますとここで強調したかったことは、

  1. 現在の農政を一生懸命維持しても誰のためにもならない
  2. TPPの最大の受益者は大企業ではなく一般国民
  3. 農業の生産性をあげることが農家のためにも消費者のためにもなる

ということです。農業はつぶれてもいい、補助金取り上げろとかそういう話ではなく、コストを負担している一般消費者のことも公平に考えましょう。そして、現状よりも農業や産業界、もちろん一般国民にメリットがある解決策があると思うので、建設的にそこに至りましょうという提案です。


TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に対する議論が日本で盛り上がっている。最初に立場を明らかにしておくと、私はTPPに是非参加するべきだと考えている。なぜなら大多数の国民がメリットを受けられるからである。しかし報道記事、とくに日経をみていると農業VS製造業という構図で捉えられることが多い。もちろんこれも間違いではないが、私はもっと一般消費者の利益を強調すべきだと思うし、それが世論を生み出すことにつながっていくはずである。

本稿の読者には釈迦に説法かもしれないが、貿易のロジックをおさらいしたい。200年前にデヴィット・リカードは、貿易が参加国全てに利益をもたらすことの理論的裏づけを与えた。そのロジックはシンプルだ。あるところに大工仕事が得意な弁護士がいたとしよう。彼は並の大工よりも仕事ができるが、大工仕事をするよりは同じ時間で弁護士をやる方がお金を稼げる。であれば、弁護士としてお金を稼ぎそのお金で大工を雇えばよい。弁護士も大工も、ともにメリットを受けることができる。これが比較優位論である。

では現代に当てはめよう。日本が生産で優位に立つのは製造業だ。他国に日本の良質で安い工業製品を販売し、日本は他国の安い農産物や必要な資源を買う。そうすることによって日本と貿易相手国の双方がメリットを受けられる。

しかし通常先進国では農業が保護され、純粋な自由貿易が成り立たない。もちろん日本も例外ではない。農業に保護が与えられるのは、生産性で劣るが故に所得格差が生じるからである。高度経済成長期を通じて、第二次、第三次産業の生産性向上は著しく、それは給料の上昇という形をとる。これを放置しておけば、農業従事者は相対的に貧しい存在となってしまう。“弱者”となった農業従事者は保護を求めて政治団体を結成し、政治家に票を与える代わりに補助金や高関税といった保護を獲得する。

では、このコストを払うのはいったい誰か。それは名もなき庶民である。ひとつは税金、もうひとつは食料品の高価格という形によって。そして後者の方がはるかに大きい。OECDの「Factbook 2010」の推計によれば、日本の生産者保護は農業生産の47.8%にのぼり、アメリカの6.8%、EUの24.9%と比べてもあまりに高い。消費者が負担している総額は5兆円にのぼり国民一人当たり平均で約4万円、世帯あたりで約10万円になる。

もし、TPPへの参加を逃せば、これに製造業の逸失利益が加わる。通常先進国の労働分配率は概ね7割なので、TPPによって仮に10兆円GDPが増えれば、7兆円が給与として労働者に分配される。一人当たり平均で約6万円、世帯あたりで14万円になる。

もちろん農業は大切な産業であり、多少の負担をしてでも振興すべきことに私も異論はない。しかし、そもそも関税保護が本当に日本の農業の為になるだろうか。過保護はモラルハザードを起こし自身の成長を妨げる。農業の生産高はここ20年で8兆円から4.4兆円、農家数は380万戸から175万戸、平均就業年齢65歳、耕地面積は520万haから460万haまで減少した。農業政策の失敗は誰の目にも明らかである。保護を与え続けた結果農業が弱体化しさらに保護を求めるという負のスパイラルに陥っている。

今必要なことは勇気をもってこの負のスパイラルを断ち切ることである。最も望ましい状況は、生産性の高い農業によって安く安全な農産物が国民に届けられ、その結果農業従事者も十分な利益をあげられることである。農業関係者は関税保護ではなく、どうしたら生産性が向上するか、そのためにはどのような公的援助が必要なのかということを前向きに訴えて欲しい。その為であれば、国民も税金を投下することに納得するだろう。なお、民主党の無差別な戸別所得補償は生産性の低い農家を温存することになり、全く真逆の方向であることを指摘しておく。

最後に農業生産の外部性(安全保障、環境保護、文化などのお金で計れない価値)は確かにあるが、例えば食の安全保障などはむしろ海外からの多様な供給源を確保することによっても達成されうるものであり、慎重な議論が必要である。また、貿易も同じように外部効果を持つ。先人の言葉を借りてこれを指摘し、論考を締めくくりたい。

「貿易がもたらす知性、モラル面でのメリットは、経済的なそれをはるかに上回る。考え方や行動様式の違う人々との接触がうまくいっていない現代において、この効果を強調してもしすぎることはない。以前”愛国者達”は、よほど世界状況に造詣が深くなければ自国以外の全ての国が弱く、貧しく、不正がはびこっていることを望んだ。しかし今やそんな人々でも、他国の進歩と繁栄が自国の進歩と繁栄につながることを知っている。」-ジョン・スチュアート・ミル

隣国に対する不寛容、不理解が増長しているように見える今こそ、100年以上前の彼の言葉が輝きを放っているように思われる。


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おまけ: どうでもいいことですが、「経済・政治・国際」タグを追加しました。従来のカテゴリーに当てはまらないエントリーが増えてきたので。過去のエントリーの修正は、、、手間がかかるので時間ができたらちょこちょこ直します。

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2010.11.17

オバマと胡錦濤のラップ

リアリズムと防衛を学ぶ」さんのブログで面白い動画をみつけたので、転載させていただきます。オバマと胡錦濤がラップで喧嘩してます。

僕が言うのも僭越ですが、このビデオ大変よくできていて明らかに経済学の知識がある人がつくったんだろうなぁと思えます。英語の字幕しかないので、訳します。

胡錦濤「社会の安定の為に輸出が必要なんだよ」

オバマ「俺らは最後の消費者の役割にうんざりしてるんだよ」

オバマ「おい、アメリカは今苦しいんだよ。ちょっと聞けよ。俺らを助けろよ、人民元は明らかに低すぎるだろ」

オバマ「何も俺らは『為替操作国』だっていってるんじゃないんだぜ、変動相場にしろよ、変動相場に」

オバマ「IMFの犬達は俺達の味方だぜ」

オバマ「ノーベル平和賞の受賞者を拷問するのはやめたらどうだ?」

胡錦濤「黙ってな、てめえの都合のいい解釈は」

胡錦濤「人民元があがってもお前の輸出は増えねえよ」

胡錦濤「ノーベル賞なんてお前らのいいなりだろ」

胡錦濤「大体お前ら自分達のやったことを考えてみな」

胡錦濤「ノルウェーなんて俺らの札束攻撃に苦しむことになるぜ」

胡錦濤「今の不況はもともとお前らのせいだろ、それを差し置いて取引しようとすんなよ」

胡錦濤「ブレトンウッズがなけりゃお前らなんて今頃アルゼンチンだぜ」(ちなみに関連エントリーはこちら

ボーカル「彼らは敵じゃないけどフレネミー(Friendとenemyを掛け合わせた造語)なのよ。お互いがいなくちゃ困るのね」

オバマ「そりゃ確かだ。俺らは世界の銀行さ」

オバマ「不安になればみんなドルを求めるのさ」

オバマ「みんなドル建てで資産をもってるんだぜ。財政破綻したらどうなる」

オバマ「俺らはドルでしか払わないぜ、ドルが暴落したらお前はどうするつもりだ?」

オバマ「大体鉛無しでおもちゃぐらいつくってみろや」

オバマ「安売りのペットフード買ったら死んじゃったじゃねーか」

オバマ「今まで紳士的にやってきたけど、もう限界だぜ」

オバマ「行け、Timmy G」(というかこの人誰?)

胡錦濤「貿易”戦争”?馬鹿じぇねえの。銃とロケットはおいとけよ、金の話だろ」

胡錦濤「下手な挑発はやめときな、後悔するぜ」

胡錦濤「もうすぐドルなんてなくなって、人民元が主役になるぜ」

胡錦濤「ドルなんてずーっと安くなってるじゃねーか」

胡錦濤「俺らには雇用が大事なんだよ」

胡錦濤「景気回復するまで元を安くするにきまってるじゃねーか」

胡錦濤「つっかかってくんなよ、現実みろよ」

胡錦濤「信じられないなら、統計みてみろ」

胡錦濤「これが中国風資本主義だぜ」

ボーカル「彼らは敵じゃないけどフレネミーなのよ。お互いがいなくちゃ困るのね」

ふぅ・・・。それにしてもやっぱりスラングは意味が分からないのばかりですね。

※補足 全訳ではありません。適当に訳してますが、もし大きく間違ってたら教えてください。

※補足2 Go Timmy はガイトナー財務長官のことで今年春に北京に行ったそうです。Cowboysさんありがとうございます。

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2010.11.16

Rememberance Day

11月11日はCommon wealth(旧大英帝国、カナダ、オーストラリア、インド等)の国々で戦役者追悼記念日となっています。もともとは1918年の11月11日11時に第1次世界大戦が終了したことにちなみ、戦争で亡くなった全ての人を追悼します。

11月の第2日曜日には英国の教会などで追悼式典が開かれます。

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写真は花輪を捧げるエリザベス女王。後ろは左からエド・ミリバン(労働党党首)、ニック・グレッグ(自民党党首、副首相)、デビット・キャメロン(保守党党首、首相)。さらに後ろは歴代首相(ゴードン・ブラウン、トニー・ブレア、ジョン・メイジャー)。

花輪を捧げる序列は女王⇒首相⇒副首相⇒野党第一党党首⇒前首相達という順番でした。野党の党首が第三位なんですね。こういうシーンをみてると、「リーダーとしての栄誉と責任」を感じます。

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なお、チャールズ皇太子の息子で王位継承順位2位のウィリアム王子(現役軍人)はアフガニスタンを訪問し、セレモニーに参加しました。

Rememberance dayは別名ポピーデイとも呼ばれます。ポピーとはヒナゲシのこと。なんでも第一次世界大戦の激戦場だったフランダースではこの花が一面に咲いていたことに由来するそうです。

ちょうど日本の赤い羽根のように、1ヶ月ぐらい前から軍の人達が道端で募金活動(退役軍人へのチャリティ)をします。募金をすると造花のポピーがもらえまして、直近の一週間になると、BBCの出演者は全員例外なくこれをつけてます。

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こうしたイベントをみるとやはり軍隊に対する姿勢が日本とは全然違うことを認識します。なお、日本も8月15日に全国戦没者追悼式という結構大事な式典があるのですが、どうも”NHKが地味に放送している、年配の方々のみが参加する式典”というイメージが強く(個人的印象)、国民からの支持や認知度という点でかなりの差があるような気がします。もちろん、イギリスは現在もアフガニスタンで戦争中で、毎年軍人が亡くなっているので一緒には語れませんが。

ここ一年で広島の平和記念館とかナチスの史跡などを訪れましたが、戦争の惨禍を定期的に認識しなおすことはやはり必要なのだと思うようになりました。一年に一回ぐらいは、日本でももう少し国民が真剣に戦争について考えるようになれば、と思います。

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2010.11.14

就職の現実的な話

最近ふと思ったり、しゃべったりした就職関連のことをまとめてみました。多分他のビジネススクールも大体同じだと思うのですが、まずはLBSの就職関連データから。

1.就職率(2009年データ)

Chart1_2

2009年は恐らく景気の悪い年だったと思いますが、就職率は8割。8割も就職とみるか、2割も就職が決まらないとみるか。なお、起業もわずかながらいまして5%程度です。もっとも、15人程度起業したってことですから立派なもんだと思います。

「企業派遣なんてやってるのは日本と韓国だけ」という俗説を聞くこともありますが、欧米の大手コンサル会社は結構MBAに派遣してます。もちろん、日本企業のように給料まで払うというのはまずありえませんが、授業料や生活費に対して一定の補助をだすのはごく普通です。通常「卒業後2年間は派遣元で働くこと」という条件がついてますので、そういう人たちは大抵元の会社に戻ります。

2.業界別

Chart2

LBSは多少金融業界に就職する比重が高いかと思いますが(リーマンショック前は4割強)、どこのビジネススクールでも金融、コンサルティングが2大就職先というのは、あまり変わらないでしょう。

3.実際のケース

僕のスタディグループにDean's List(成績最優秀者Top10% だか5%だか)の女の子がいるのですが、その子は”しぶしぶ”某トップコンサルファームに就職することに決めたそうです。

なぜ”しぶしぶ”かというと、本人はもっと「給料が安くてもいいから、ワークライフバランスがよくて、やりがいのある仕事がしたい」と考えていたそうですが、「他に選択肢がないからしょうがないよね」とのこと。

実はこのように就職活動を始めた頃は色々と手を伸ばすのですが、結局金融orコンサルに落ち着くというケースは少なくないと思います。なんだかんだ言って、冷静に考えると、給与や仕事内容で比肩する職があまりないというのが現実なのでしょう。なお、事業会社に就職するのはその業界の経験がないとMBA卒でもかなり厳しいです。

もちろん、本人に確固たる意思があれば話は全く違います。が、前にもちらりと取り上げましたが、入学時のエッセイにキャリアゴールとか色々と書くものの、「それはそれ、これはこれ」という感じで実際には特に決まってない人が大部分なのです。

ということで、私費でMBA留学を考えている人は”よっぽどやりたいことがない限り”かなりの確率で外資金融か外資コンサルに転職することになることを念頭において辞表を提出しましょう。

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おまけ:

Lehman
私物を運び出すリーマン・ブラザーズ社員(2008年)

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2010.11.12

授業料値上げに関するあれこれ

先日イギリス政府が大学の授業料の上限値上げを決定しました。現在のキャップは3290ポンド(約40万円)ですが、これが2012年から9000ポンド(約120万円)まであがることになります。一応貧困層対策として、政府のローンが利用でき、年収が260万円を超えるまでは返済の義務がないという政策とパッケージとなっています。

が、当然ながら学生からは反発が大きく、昨日大規模なデモ行進がロンドンでありました。いやー、激しいですね。

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保守党本部 カメラマンナイスショット

ちなみにこれは当然犯罪なので、50人の逮捕者がでました。BBCの解説者の言ですが

昨年のG20のロンドンサミットでは警察はデモ参加者を厳しく取り締まって問題となった。明らかにバランスに欠けた対応だったと言われた。・・・今回は逆の方向にバランスを欠いた。(Danny Shaw/11 Nov 原文こちら)

ということでした。

この授業料の値上げで窮地に立っているのが、連立政権に参加している自由民主党。なぜなら授業料の値上げは認めないというのが今年の選挙の公約だったからです。

なお、ニック・クレッグ党首の言は次のとおり(映像こちら)。

私も、私も慎重さはもちろん大切だと思う。公約をつくるときにはもっと注意深くあるべきだっただろう。当時は我々は達成可能だと思っていたのだ。

野党時代は財政に対する情報が十分なかったということもある。それに我々は選挙に勝ったわけではない。連立政権を作るにあたってはもちろん妥協が必要で、これはその一部だ・・・

もちろん、もちろん、皆さんの怒りは理解できる。しかし、我々の子や孫の方がより重要なのではないか。

これを情けない弁明ととるべきなのか、それとも一応自分の非を素直に認めているととるべきか。個人的感想としては、少なくとも誠実に答えてるし、責任をとる意識もあるようです。日本の政治家の答えになってない国会答弁に比べれば、会話が成り立ってるだけ100倍ましなのではないかと思いました(もちろん日本の政治家みたいな人たちもいますけど)。

テレビを見てて思ったのですが、こちらは首相クラスの単独インタビューが普通にありますね。日本であまり閣僚の単独インタビューとかをみたことがないのですが、これは日本メディアの横並び意識(広告では「XXテレビだけ広告出稿するのはどうしてですか」というプレッシャーが常に来る)に付き合うのを政治家が忌避しているのか、あるいは一政党を特別扱いしないというメディアサイドの自縄自縛なのか、他に理由があるのか。

ただ、政治家もメディアによる情報発信をもっとうまく使って、国民の理解を得るべく努力すべきだと思うんですけどね。どうも日本政府には”民は之に由らしむべし、之を知らしむべからず”という姿勢を感じる(政党に関わらず)のは僕だけではないと思います。

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おまけ: 余談ですが小泉元首相の「この程度の公約を守れないのはたいしたことではない!」というのもすごかったですね。イギリスでそんなこといったら政治生命に関わりそう。

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2010.11.10

穀物法のケーススタディ

TPP(環太平洋連携協定)には、僕も関心をよせています。はじめは貿易についてきっちりまとめようと思ったのですが、所詮ここはブログなので散発的に思ったこと、調べたことを書いていこうと思います。

自由貿易と保護主義の対決は何も”グローバリゼーション”の現代特有の問題ではなく、有史以来ありました。しかし、その中でも最も有名なケースといえば、イギリスの穀物法でしょう。

Corn_laws

もともとイギリスには穀物に関する法律が1600年代から100以上あり、生産・販売方法などを細かく規制していて、穀物法はそのひとつでした。しかし1700年代はイギリスは穀物の輸出国だったので特に保護主義に使われることはありませんでした。

ところがナポレオン戦争が終わると状況が一変します。大陸産の安い穀物が入ってきて、小麦の価格が急激に下がり、地主と農民を直撃したのです。地主達は自分達の利益の確保を求めて、輸入小麦を締め出す法案(1815年)を通しました。当初は数量制限、後に高関税が採用されました。

その結果地主達の思惑通りに小麦価格は高止まりし、庶民は高いパンに苦しむことになります。政府はライ麦や燕麦を混ぜたパンを推奨しますが、既に普通のパンに慣れていた庶民には受け入れがたいものでした。

その後産業資本家が穀物法の反対にまわります。彼らは穀物法の結果、労働者に高い賃金を払わざるを得ず、それが彼らの利益を圧迫していると考えたのです。そして、反穀物法同盟を結成し、熾烈なロビイング活動を繰り広げます。

折からの新聞の普及とあいまって、やがて徐々に反穀物法の圧力が高まっていきます。なお、この運動には意外な支援者もいました。教会です。穀物法によってパンの価格が高止まりし、その結果貧民層が苦しんでいる、というわけです。確かに当時のエンゲル係数は今よりもはるかに高かったでしょうから、まさに生きるか死ぬかの問題だったのでしょう。

与党の保守党は徐々に関税を引き下げ、1846年に至って穀物法は廃止され、小麦価格はその後急激に下がっていきます。

そして、イギリスの農業はどうなったのでしょうか。もちろん生産性の低い小規模農家は没落し、都市に出て労働者となったり、アメリカに渡ったりしました。しかし農業そのものは海外との競争によって革新が進み、肥料の改良や生産の効率化が行われ、ハイ・ファーミングと呼ばれる黄金時代を形成したのです。

ひるがえって我が日本ですが、農林水産省が先日(10月26日)TPPによって4兆円生産額が減少する、という推計を提出したそうです。この推計は「国際価格より1円でも高ければ即売れなくなる」というありえない仮定に基づいています。多少高くても国産がいいという消費者は少なくないでしょうし、まさに穀物法の時のように農業の自己革新も起こって国産品の価格も下がるはずですが、そういったことは考慮されていません。

また、輸出の増加などのアップサイドが一切計算されておらず、「省益あって国益なし」と批判されてもしょうがないでしょう。こんないい加減なことしてると、そのうち誰も農水省の言うことを聞かなくなると思うんですけどね。一般国民のためにも、農業のためにも、もちろん農水省の為にもよくないと思います。

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2010.11.09

デフレについて考える(投稿記事)

アゴラというサイトに投稿した記事です。改めて読むと、ちょっと恥ずかしいですね・・・。何偉そうに語ってんだ、という感じがして。ご指導ご鞭撻をいただければという意味を込めて公開します。


デフレが日本経済の深刻な問題であることはいまや共通認識だが、その解決策については百家争鳴でありいまだ合意形成をみない。これは、そもそもデフレの原因について大きな認識差異があることが原因であろう。そこで、まずデフレの原因について検証し、その後、提言を行いたい。

価格形成のメカニズムに対する論争は古くて新しい。最も標準的で強力な仮説は貨幣数量説である。単純化すれば「価格」は「貨幣量」を「世の中のモノ・サービスの量」で割ることにきまる。後者の変動を仮に一定とすれば、貨幣量の変動に価格も連動する。デフレは貨幣量が不足している状況である。実際に、金貨や銀貨が貨幣の時代はデフレが珍しくなかったが、それは金や銀の産出量によって貨幣量が決まり、改鋳などの手段は手間も時間もかかったからである。

この立場にたてば、デフレの解決策は単純明快、「お金を刷る」ことである。もちろん現実には日銀がお金を配るわけではないから、まず銀行が持っている国債を買い付けて、銀行の日銀口座にお金をいれる。銀行に貸し出し先がなくて市中にお金がいかないなら、いっそ社債を買え、株を買え、という方向に発展していく。つまりデフレは日銀の怠慢に他ならない、ということになる。

一方で「モノやサービスに対する需給バランス」に注目する立場もある。つまり「貨幣量」は「モノ・サービスの需要」に連動して決まるものであり、独立変数ではない。デフレになっているのはなぜか?モノやサービスを欲しいという人がいないからである。需要がなければ売る側としては価格を下げざるを得ない、これがデフレである。この立場に立てば、日銀がいくらお金を刷っても無駄である。そもそも、世の中でモノが売れなければ、お金が回転するはずがない。銀行や企業の口座にお金が溜まっていくだけで、世の中はあいも変らずデフレである。

いったいどちらが正しいのであろうか?混乱させるようで恐縮だが、答えはどちらも正しい。通貨量とインフレには長期的には高い相関があり、日銀がお金を供給し続ければいつか必ず物価は反転する。しかし日銀の2000年代前半の量的緩和がそれほど物価を押し上げなかったように、短期的に経済が収縮している場合には、それほど効果はない。

ということで、やれることはできるだけやったほうがいいというのが私の結論だ。それほど効果は望めないかもしれないが、日銀も積極的な量的緩和に踏み切るべきだし、政府や経済界も構造改革を進めて新規の需要を掘り起こす必要がある。分かりやすい例でいえば、JALのような会社がより効率的になり、航空運賃が下がれば需要が生まれるし、余剰の可処分所得が他のモノ・サービスの購入に向けられる。TPPに加盟して海外での需要が発生すれば、当然貨幣需要もあがって価格も上昇していくだろう。当然私がより重要視すべきと考えるのは、後者である。

最後に私が強調したいのは、今日本がかかえるデフレの問題は重層的で複雑なものである、ということだ。インフレターゲットを導入すればそれで解決するような話ではないし、日銀の怠慢のせいだけでもない。恐らくこの問題の解決には政府、経済界含めて大変な努力が必要だし、時間もかかるだろう。しかし、解決不可能な問題では決してない。


※補足 後で考えたこと

TPPへの加盟は安い輸入品によって価格下落圧力が発生しますね。ただ同時に輸出品への需要が喚起されます。総合的には経済活動が活性化するので、貨幣の取引需要があがるのではないかと考えました。非効率企業の退出も同様のロジックです。

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昔日の栄光

最近機会があって、いくつかのカンファレンスに出席しました。若手外交官が集まる会議、日本とコモンウェルス(旧大英帝国諸国)の関係を考える会議、などなど。

そこでいろんな方の講演を聞いたのですが、ある種の違和感を感じることが多かったのです。というのも、なんとなく「イギリスは世界をリードする国で、いかにその地位を保つかが国際政治における課題である」という前提のもとに話されている気がするのです。

言うまでもなく第二次世界大戦前、イギリスは世界中に植民地を持ち、パクスブリタニカと呼ばれる一時代を築きました。

Map_3

しかし、それももはや70年以上前の話。特にアジア圏に生まれ育った身としては、イギリスが世界の主役であったのは歴史教科書の中の話ですが、当地の一部知的階級の高年齢層にとってはそうではないようです。

例えば僕が聞いててぶっとびそうになったのは、キングスカレッジの偉い教授の話。

「これからはアジアが国際政治における主要なプレーヤーになってくるだろう。特に中国とインドだ。イギリスはこの事態に対してどう対応すべきか?それはインドとの『特別な関係』を活用することだ。イギリスはインドを通してアジアに影響力を維持することができる」

とか、おいおいおい、突っ込みどころ満載ですよ、みたいな。

先のエントリーでもご紹介した防衛予算のカットに対しても、「軍事予算をカットしてイギリスは主導的な国際的地位を維持できるのか」という問題提起がなされていました。

それと比較すると若手は比較的健全な現状認識を持っているという印象があります。やはり育った環境で刷り込まれた意識を年をとってから変えるのは難しいのかもしれません。現実は日々変わろうとも。

もっとも、日本のように国際政治のリーダーシップをハナから諦めている国と比べると”がんばっている”とも言えます。ですが、それなりにイギリスに愛着のある僕でも「今さらイギリスが国際社会でリーダーシップつってもピンと来ないな。無理するこたぁないんじゃないの」というのが偽らざる感想です。

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2010.11.08

株式投資のススメ

一般の株式投資家からみた場合、最も役に立つのは「効率的市場仮説」ではないかと思うのです。ここはファイナンス学会ではないので、少し乱暴ですが結論を先取りすると「投資信託を厳選して買うよりも全株式を満遍なく買って放っておいた方が長期的には勝つ」ということになります。

Wallstreet3_2

暇な偉いファイナンスの学者さんが、全米の1493の投資信託の平均収益率を30年間にわたって調べました(論文はこちら)。そうすると、市場の平均収益率に勝った年が半分ぐらいある一方で、負けた年も同じぐらいあったのです。

結局投資信託に払う手数料(0.5~2%)を差し引くと、どのファンドの平均リターンも「インデックスファンドを買って放っておく戦略」に勝てなかったということです。誰が言ったかは定かではありませんが、これを面白おかしく言うと、

「高給取りのファンドマネージャーが厳選した10銘柄と、チンパンジーがダーツを投げて選んだ10銘柄のパフォーマンスは変わらない」

ということになります。

しかしこの結論に従えばファンドは各市場に一個ずつ(ダウ平均、日経平均、中国A株平均など)あればいいはずですが、投資信託は世の中から消えていません。こちらの情報サイトにもあるとおり色々ありますし、人々はランキングづけも熱心です。

やはり人間は欲に目がくらんだ愚かな動物なのでしょうか?ところが統計的データに基づいた反論もありまして、

Priceearnings_ratios_as_a_predictor

ロバート・シラーの「Irrational Exuberance(非合理なリターン?かな)」の中では低PER(いわゆる割安株)の平均リターンは他よりも高いということをデータで示しています。他にも小型株の平均リターンは市場平均を上回る、ということも主張されています。

しかしこれが本当だとすれば、「割安・小型株に投資が殺到して一瞬で収益機会が消滅してしまう」ことになってもおかしくないはずですが、どうなんでしょう。ミステリーですね。

色々議論はかしがましいですが、いずれにしろ市場の平均リターンを上回るのは至難の業であり、そういった素晴らしいファンドにめぐり合う確率は僅少と言えるでしょう。ですので、個人的には「インデックスファンドを買って放っておく」というのが株式投資にかける情報収集の手間や、心労などのお金で計れないコスト等を考えると、悪くない投資方法なんじゃないかと思っています。

それでは最後に株式投資で世界有数の大金持ちになった方よりお言葉を賜りたいと思います。

Images_2

もし効率的市場仮説が正しければ、私は今頃ブリキの缶を抱えたホームレスだっただろう

-ウォーレン・バフェット

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2010.11.07

栄枯盛衰の国 (3)

チュニジアは独立と植民地支配を繰り返しています。ローマ帝国、アラブ勢力、オスマン・トルコ帝国、フランスといった具合に。そうはいっても6世紀以降はアラブ系の住民がほとんどなので、基本習俗はアラブ・イスラムです。ただ、最後の植民地支配を反映してフランス語もよく通じます。

通じます、といいつつ所詮僕は日本語と英語少しの男なので、フランス語の案内しかなかったりすると困るわけです。アラビア語だけよりはましですが・・・。

さて、チュニスの食はこんな感じでした。食事には必ずフランスパンが付くのでフランスの影響(?)が伺えるものの、やっぱり基本はアラブ系で、中東エリアの食事とよく似てます。

R0012065

これはオジャと呼ばれる煮込み料理。卵、肉、野菜(ピーマン、たまねぎ等)がトマトピリ辛スープに入って出てきます。大体どこの食堂でもでてくるのでよく食べました。必ずオリーブが入っているところに地中海らしさを感じます。なお、全般的に衛生面でやや難ありでしたが、不思議とおなかはこわしませんでした。

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サラダつきチキンの丸焼き。不衛生な国では生野菜は食うなとか、かつて日本にいたころはいわれてたような気がしますが、もはやあまり気にならなくなりました。あ、でもインドは気をつけたほうがいいですよ。気をつけたところで無駄という気もしますが。

R0012100

一応旅行記っぽく締めはチュニスのグランモスクのご紹介。個人的印象としては首都のチュニスに見所は少ないという印象を持ちました。リゾートで来るか、サハラ砂漠に行くか、遺跡をちょこっとめぐるか、がお勧めです。

そんな感じの、未来よりは過去に向き合う3泊4日のチュニジアの旅でした。

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2010.11.05

栄枯盛衰の国 (2)

ということで、カルタゴの遺跡はちょっとしょぼかったのですが、同時代の大規模な遺跡(カルタゴ以降ローマの属州時代)がチュニスから100kmほど離れたところに残っているのでそちらを訪問しました。ドゥッガにある世界遺産です。

R0012066

多分普通の旅行者はタクシーで行くことになると思うのですが、一日貸切料金の2万円をけちったのと、何事も経験ということで公共バスでいくことにしました。外見は立派そうですが、中は普通に椅子がぶっこわれてたり、まさにサードカントリーです。

しかし、この遺跡は印象深かったです。

R0012079

おぉ、これだよこれ。みたいな感じで遺跡が広がっています。

R0012082

写真暗めですいません。いつも空をきれいに撮りたくて、レンズ絞ってます。R0012085
思わず合掌。

しかし海岸線からも離れてるし、不便なところのように思えますが、なんでこんなところにこんな大規模な町があったんですかね。まさかサハラ砂漠を縦断して交易はしなかったでしょうし。

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栄枯盛衰の国 (1)

先週末に北アフリカのチュニジアに行ってきました。

Map_tunisia_2

恐らくチュニジアには関心のない方が大部分かと思いますが、「カルタゴ」といえばお聞きになられた方も多いのではないでしょうか。紀元前にローマ帝国と地中海の覇権を賭けて争った古代都市国家です。

アルプスを越えてローマを滅亡の淵まで追い詰めた名将ハンニバル。そのハンニバルの手法を学び、ザマの会戦でハンニバルを打ち破ったスキピオ・アフリカヌス。破壊され、炎上するカルタゴをみて、「やがて我がローマも同じ運命をたどるのか」と涙したというスキピオ・アエミリアヌス。ローマとカルタゴの抗争(ポエニ戦争)には魅力的な登場人物がひしめき合います。

ここら辺は塩野七生の「ローマ人の物語」に詳しいので、まだ読まれたことのない方は是非読んでみてください。僕も中学生時代に読んで胸が熱くなりました。そして、なぜかうちのオヤジは中学生の息子が買ってきた本を本棚からかっぱらって、「おい次はまだか」とか勝手なことを言ってました。

しかしですね、実際のカルタゴはちと名前負けしてるんですね・・・。

R0012042

このエリアは首都チュニスの郊外にあたり、大統領官邸もあって高級住宅地を形成しています。確かに田園調布のような感じでした。恐らく家々の下には遺跡が眠っていると思うのですが、残念ながらそれをみることはかなわず、ちょっと規模感が足りないのです。

ちなみに冒頭に紹介した塩野七生の本でいまだに覚えている一節があります。うろ覚えなのですが、確かこんな趣旨だったかと。

「スキピオ・アエミリアヌスは栄華を極めた都市が滅び行くさまに自国の運命を重ねて慨嘆したが、従軍していた16歳の多感なティベリウス・グラックスが別の感想をもっても不思議ではないだろう。『ローマだけは絶対に同じ轍を踏ませてはならない』というような・・・」

後にグラックス兄弟は、低迷するローマの改革に乗り出すものの、守旧派の反対にあい暗殺されます。多分この本を読んだのは、同じく僕が15、16歳のときでした。「自分も命を賭けてでも信念を貫き通す生き方がしたい」と思ったものです。

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2010.11.02

原罪仮説が教えるもの

最近原罪仮説についてレポートを書いたので、そちらの内容を少々ご紹介します。といっても、もちろんアダムとイブの話ではありません。

舞台は1997年の東南アジア。いわゆるアジア通貨危機です。この年東南アジア諸国の通貨が大暴落しました。影響を受けた国は以下のとおりです。

Asian_financial_crisis_en20090505

そして、通貨の落ち込み幅は以下のとおり、まさに”暴落”と呼ぶにふさわしいものです。

CurrencyExchange rate
(per US$1)
Change
June 1997 July 1998
Thailand Thai baht 24.5 41 -40.2%
Indonesia Indonesian rupiah 2,380 14,150 -83.2%
Philippines Philippine peso 26.3 42 -37.4%
Malaysia Malaysian ringgit 2.5 4.1 -39.0%
South KoreaSouth Korean won 850 1,290 -34.1%

その後ほどなくして、経済学者たちは「なぜ新興国がこれほどまでに危機に脆いのか」を研究するようになり、そのひとつとして「原罪仮説」が唱えられました。

当時東南アジアは「奇跡」と呼ばれるほどの経済成長を謳歌していました。成長するには投資が必要ですが、そのかなりの部分を「ドル建て」で先進国から借り入れていました。これが危機の「原罪」とされたのです。

ドルで借りる以上、ドルで返さなくてはなりません。当時はドルペッグ固定相場制(現在の中国と同じ)でしたから、本来であればリスクはないはずでした。が、新興国の通貨が過剰評価されていると考えた欧米のヘッジファンドは猛烈な売り浴びせを開始しました。

現地通貨はどんどん下がっていきます。現地企業は現地通貨で商売していますから、海外投資家からみると「あんたの持ってるお金の価値は俺達にとっては半分になった。倍のカネを用意しろ」という状況です。

状況を改善しようと思うと、通貨を防衛する必要があります。各国の中央銀行は利率を引き上げます(利子が多くつく通貨は魅力的になる)。タイに至っては一日の利子率が3000%にもなりました。しかし、このような異常金利はかえって通貨の信認を失わせ、資本の逃避が加速します。

一方で、現地企業は資金繰りが苦しいものの利子が高すぎてお金が借りられません。実態経済は悪化し、そしてそれが通貨の下落に拍車をかけていきます。まさに負のスパイラル。

結局各国は固定相場制を諦め、変動相場制に移行しました。IMFや日本が緊急融資を行うことによって、最終的に危機は収束していきます。

このように「何の通貨で借りるか」というのは非常に重要なファクターです。例えば日本は日露戦争のポンド建ての外債を1986年にようやく完済しました。ちなみに第二次世界大戦中はどこも日本に貸してくれなかったので円建ての国債を国内の投資家に買わせましたが、こちらはインフレという形で日本政府が実質踏み倒しています。

90226saiken03
(戦時国債宣伝パンフレット。当時の大蔵省の売り文句は「日本は内国債がほとんどで外国から借金をしているわけではないから大丈夫」だったそうです)

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