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2010.11.22

メルコスールのケース

夏にちょっと関わったプロジェクトのテーマでもあったのですが、今日はメルコスールという南米諸国の貿易協定(1991年開始)について取り上げてみたいと思います。地域経済協定といえば、もちろんEUが最も有名ですが、NAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコ)もありますし、ASEAN FTA(進行中)など地域自由貿易協定は結構あります。

メルコスールの加盟国は以下のとおりで、ほぼ南米全部といっていいでしょう。原則として域内の貿易では関税が免除されます。

Map_of_mercosur

しかし、地域貿易協定には落とし穴があり、これによって国が損をする可能性があるのです。具体的な事例をあげましょう。

例えばアルゼンチンでは域外からの輸入車には関税が35%かかり、さらにこの値段に付加価値税が21%どんとのっかってきますので、輸入車はお値段で圧倒的に不利になります。というか、一部の高級車以外まず輸入車は売れません(2010年 税金の計算が間違っていたらおしえてください)

残る選択肢は域内のどこかで生産された車を買うしかないのですが、果たしてこれが国民にとってよいことなのでしょうか?地域貿易協定によって損をするケースは下記のとおりです。

Chart

例えば、仮にアルゼンチン国民が協定前は200万円(うち100万円が税金)でEU産の車を買っていたとしましょう。しかし、関税撤廃によって、ブラジル産の同等の車が190万円になったとすれば、みんなそちらを買います。しかし、実際にはブラジルの相対的に割高な車を買っているに過ぎず、アルゼンチン政府の関税収入が減りますから、アルゼンチンの国全体としてみれば、損をしているわけです。

実際に世界銀行は1996年にメルコスールの協定国は域内の”割高な商品”を買っていることを指摘しました。この内容が事前にリークされ、参加国、特にブラジルは世銀にレポートをリリースしないようにプレッシャーをかけましたが、結局レポートの発表は遅延したものの最終的に公開されました。

もちろん地域貿易協定によって良い結果をもたらした部分もあり、全てが悪いと断じることはできません。しかし自由貿易と比較すると”歪み”の発生しやすいのが地域貿易協定であり、次善の策であることは認識しておくべきでしょう。

日本もFTAやTPPの話が今盛んになっていますが、こういうときこそ否定派も推進派も、過去の事例と客観的なデータに基づき、冷静に判断をくだすべきでしょう。官庁の基礎データがばらばらになっているようでは話になりません。例えば「TPPで日本農業が滅ぶ」との主張もありますが、どのような根拠(データ)や論理に基づいているのか、例えば1991年の牛肉の自由化(=関税制度の導入)のときに日本の畜産がどういう影響を受けたのか。もっとわかりすく専門家やメディアの方々が問題点を深堀してくれたらなぁ、と思います。

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コメント

>例えば「TPPで日本農業が滅ぶ」との主張もありますが、どのような根拠(データ)や論理に基づいているのか、例えば1991年の牛肉の自由化(=関税制度の導入)のときに日本の畜産がどういう影響を受けたのか。もっとわかりすく専門家やメディアの方々が問題点を深堀してくれたらなぁ、と思います。

WiLL新年号の「TPPで日本農業は急成長する 浅川芳裕」という記事に解説がありましたよ。
http://www.zassi.net/mag_index.php?id=228&issue=28670

畜産だけでなく、果物(柑橘、りんご、さくらんぼ)の自由化の影響分析もありました。

いずれも、国産が増えたとのことでした。

反対にBSE問題で、米国産牛肉の輸入ストップしたら、国産牛肉の需要も減ったそうです。

「輸入が増えると国産が減る」という単純な図式は成り立たないそうです。


むしろ、「輸入が増えた品目は、国産も増える」の方が常識で、その品目の消費が伸びると、他の品目から"胃袋”シェアを奪い、結果的に、国産の需要も引きの伸ばされる効果があるようです。

投稿: 輸入が増えると国産も増える! | 2010.11.28 13時09分

ありがとうございます。直感に反する結果で面白いですね。

しかしその”国産増加”のタイムスパンや上昇幅が気になります。例えば「一時的に割安商品によって牛肉の需要が刺激されたけど、やがて元に戻ってやっぱり国産の生産量は減っていた」ということはないんでしょうか?

その時たまたま景気が良かった、天気などの生産条件が良かった、海外需要が増えた、とか理由はいろいろ考えられます。その場合は国産は増えたけど、やっぱり輸入によって国産にダメージを受けていた、という結論もありえるでしょう。

もちろん自由化をきっかけに日本人が牛肉、果物好きになった、という可能性はあります(BSEとかは一時的な全体需要の減少で、ここから輸入と国産の関係性を説明するのは困難でしょう)。もし自由化によって国産にプラス効果があるとしたら、食生活の変化よりも、やはり国内農業の自己変革、構造改革の方に注目すべきでしょうね。

色々ごちゃごちゃ考えましたが、輸入自由化⇒国内農業壊滅という単純なロジックが成り立たないというご指摘には賛成です。

投稿: Shuji | 2010.11.28 19時29分

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