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2010.11.20

自由貿易の夢

経済学的には「自由貿易は全ての国にメリットをもたらす」ということになっております。労働力が豊富な国では労働集約的な産業が行われ、技術力の高い国でハイテク製品が生産され、それぞれの国民が最も安く製品を手にすることができます(比較優位の法則)。

しかし、実際には輸入品によって駆逐される産業が政治力を駆使し、自由貿易は成立しません。先進国では農業が保護され、発展途上国では製造業が保護される傾向にあります。しかしそれでも、第二次世界大戦以降、各国は保護貿易が大戦の一因であったとの認識を持ち、貿易障壁の撤廃に勤めて来ました。

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アメリカの平均関税率 Principles of Economics by Libby Rittenberg, Timothy Tregarthen

一方で多国間交渉は合意に至ることが非常に難しく、時間もかかります。例えば、1986年に始まったGATTウルグアイラウンドは、交渉開始から7年の時間を費やし、ようやく400ページの合意基本文書と22,000ページの詳細規定に至りました。

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「オファーに対するカウンターオファー、脅しに対する脅し、何千時間にも及ぶ退屈な会議は練達の外交官でも起きていることが不可能だった」 -ポール・クルーグマン

当初アメリカがもくろんだ「2000年までに農業分野の完全自由化」は果たせず、経済学者が期待したほどの関税障壁の撤廃は行われませんでした。しかしそれでも各国の悪名高いいくつかの制度が縮減されました。日本の農産物の数量割り当て輸入制度、EUの巨額の輸出補助金、アメリカの繊維産業の数量割り当て輸入制度などです。

また、ウルグアイラウンドで合意した常設機関の設立はWTO(世界貿易機関 1995)として結実しました。特にWTOに設けられた紛争解決機関はこの手の国際機構としては珍しく機能しており(当初は大国が無視するものと思われていた)、全体として一定の成果を収めたといっていいでしょう。

なお、WTOには反グローバリゼーション(多国籍企業による発展途上国の資源収奪、環境破壊、労働収奪、あるいは先進国の非熟練労働者の雇用喪失に対する反対運動等)のデモが常につきまとっており、時に流血を伴います。

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1999年 バトル・オブ・シアトル 新ラウンドの開始に抗議

さらなる関税障壁の撤廃を目指して2001年にドーハ・ラウンドが開始されましたが、こちらは農業の自由化を望むアメリカ、それに抵抗するEUと日本、特別保護を望む発展途上国の間で完全にスタックし、2010年現在合意に至っておりません。

近年では各国とも時間と手間のかかる多国間協定を避け、次善の策として二国間協定(FTA等)や地域協定(EU、TPP等)を進めようとしておりますが、これが果たして参加国の利益となるのか、かつてのブロック経済化のような副作用を伴わないのか、次回以降はそこらへんをみていこうと思います。

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