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2011.01.07

自由貿易はセカンドベスト

Twitterが最近面白いなぁ、と思っています。ポンポンいろんな人のアイディアや意見が飛び込んでくるので触発されます。さて、そうやってみつけたのが、慶大経済学教授の金子勝さんの以下の記事。

歴史の中の「自由貿易」:錦の御旗を立ててみたけれど…

要約すると、

  • 強者となった国が主張するのが「自由貿易」である
  • 既に日本の農業の平均関税率は十分低い
  • TPPもアメリカの都合のいいように使われて日本が損をする可能性が高い

Bully

ということです。高校の大先輩で大変な実績のある金子教授に僕が何か付け足すのも憚られるのですが、前回貿易について色々と書いていたときに(こちらこちら)、あんまり貿易ばっかりでもなぁ、と控えたことがあるので、今日はこれについて書いてみたいと思います。


インドのケース

この点で興味深いのはインドのケースです。インドは第二次世界大戦後から1980年代の終わりまで、高関税を含む様々な保護主義的な政策を採用してきました。理由はまさに「自国産業の育成」です。

結果どうなったかというと、規制に守られた産業は競争するインセンティブをもたず、どんどん非効率になってしまいました。自国を閉ざすということは他国からも閉ざされるということを意味し、輸出も増えません。とうとう国は破産寸前になり91年にIMFの支援を要請し、その受入条件として経済を自由化する方向に舵をきらざるを得ませんでした。その後のインドの躍進は皆さんご存知の通りです。

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インドの成長は相当いびつです。社会資本の整備が全然おいついてないです。

実は、インドは例外的なケースではなく、第二次世界大戦後に独立した発展途上国の多くが「自国産業の保護・育成」という名目で外国製品を締め出しましたが、結局自国だけでは市場規模が十分ではなく、競争のインセンティブにも欠けていたため産業が勃興することはありませんでした。1980年代半ば、チリを皮切りに多くの国が関税を下げる自由化路線へかじをきりました。内需志向から外需志向への転換ともいえます。今では Emerging Country としてもてはやされています。

ところで、インドは参入や外資に関する規制を撤廃/緩和し関税を下げましたが、一部の高関税はいまだ維持されています。自動車の完成品輸入は100%(一部特恵関税あり)です。中国も完成車輸入には25%の高関税をかけています。つまり、関税保護にも色々なケースがあり、国益に適うかどうかは使い方次第ということがお分かりいただけるのではないかと思います。関税=善でも悪でもありません。


自由貿易はセカンドベスト

以上のように「自国産業の保護・育成」というロジックは最初に多くの国で破綻し、その後修正が行われてきました。

自由貿易がベストの選択肢ではないというのは、その通りです。自国の産業を保護し、国際競争力をつけてから自由貿易体制に移行する。これが理想でしょう。また、アメリカが自分達のことだけを考えているというのも疑うべくもありません。恐らく自由貿易といいつつ、自国の競争力のない産業はあの手この手で守り、輸出を増やそうと攻勢をかけてくるでしょう。

しかし、この点を金子教授はふれておりませんが、自国産業の保護・育成というのは多くの場合、既得権益を維持するための口実として使われます。インドのケースの前半にみられるように、関税保護なり規制なりの結果産業振興が起こらなければ単なる所得移転の可能性が高く(全てがそうではありません)、長期的にはお国の為にならないでしょう。

いったん「特別扱い」を受け入れてしまうとそこに利権がうまれます。結果として、「保護すべきでない産業」が政治的圧力によって保護されてしまい、双方の一般国民の利益がおかされます。それぐらいだったら、お互いに例外なく関税を撤廃した方がベターである、というのが自由貿易を推進するロジックです。

ということで、何でも関税撤廃、規制撤廃すればいいものではないというのは全く持ってその通りですが、そういう主張が形を変えた利権追求ではないか、長期的に日本の為になるのか、というチェックは常に必要です。ひとつ明らかなのは、競争から隔離された産業は決して成長することがない、ということでしょう。

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おまけ: fledgling industry

育成産業?未熟産業?日本語訳がよくわかりませんが、これから成長するであろう/するかもしれない産業という意味です。経済の記事とかではよくでてきます。infant industryというのもほぼ同じ意味で、こちらもよくみかけます。

ついでにおまけ: 金子教授が使われてる「平均関税率」には注意が必要です。これはOECDの推計値で品目ごとの関税の単純平均ですが、米など民間での輸入実績のない品目は除かれています。大して輸入実績のない品目の関税が高かろうが安かろうが、さして問題ではありませんから、輸入規模を考慮すべきでしょう。

輸入規模を加味した日本の農産物の実行関税率は48%にのぼり、OECDの平均13%よりだいぶ高くなります(Anderson, Martin and van der Mensbrugghe 2005)金子教授ご自身がわざわざ単純平均の危険性を指摘されているのにこちらを使わないのは不思議ですね。都合のいい数字のみを使ってミスリーディングしようとするのは日本の官僚の十八番ですけど。

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