« 「100年安心プラン」の現在 | トップページ | 覚えの無い取引 »

2011.02.04

財政破綻は単純ではない

例によってアゴラに投稿した原稿。最初はブログをベースに書いてリライトしようと思ったのですが、手間がめんどくさいのでそのまま再掲します。まぁ、このブログの読者の方が寛容と信じているので、ご容赦ください。


皆さんもご存知のようにS&Pの日本国債格付けが下がったことで、日本の公的債務残高に対して再び注目が集まっている。気になるのは「1000兆円の借金など返せるわけが無い、日本は既に実質破綻している」という扇情的な言説がよくみられることだ。国家が破綻する過程は複雑で、破綻するかどうかというのはそれほど単純な話ではない。

よく言われることだが、日本の累積公的債務は先進国中でも最悪レベルだ。

Graph
出所:OECD 2011 February (日本の2009のデータは財務省HPより)

国の経済規模の2倍近くまで公的債務がつみあがったら悲観的になるのも当然である。しかし、例えば現在深刻な財政危機に苦しむアイルランドは公債残高がGDP比で46%しかないのだ。その他にも最近実際に破綻(デフォルト)した国家の当時の公債残高をみてみよう。

アルゼンチン(2001年):53.7%

ロシア(1998年):68.1%

詳しいメカニズムの説明は避けるが(Federico Sturzenegger and Jeromin Zettelmeyer ”Debt Defaults and Lessons from a Decade of Crises” にまとまっている)、公債残高が低くても国家としての信用が毀損すれば財政は破綻する。 しかし、これらの事例は「債務残高が低くても破綻することがある」といっているだけで、「債務残高が高くても破綻しない」ことの事例にはならない。そこでもうひとつ、借金大国から復活した事例をあげよう。読者諸氏もご存知のアメリカとイギリスだ。

Graph2

Graph3
出所:McKinsey Global Institute “Debt and deleveraging” 2010 January

ということで、イギリスにいたっては1800年初頭のナポレオン戦争のときにGDPの約260%まで公債残高がつみあがったが、その後100年かけてほぼ完済のレベルまで達している。

もう少し精緻に「金融危機は予測可能か」(※財戦破綻だけではななく、民間金融機関の取付けや通貨危機を含む)ということを検証した論文を紹介しよう。Golostein (2000)は1970年から1997年の間に金融危機に陥った25カ国のマクロ経済のデータを検証した。面白いことに格付け機関やスプレッドなどの“マーケットの声”は危機を予測するのに役に立たなかった。Goldfajn and Valdes (1998)も格付けは金融危機を予測するのには使えないと主張している(格付けが無意味ということを意味しない、念の為)。

金融危機と最も強い相関を示したのは実効為替レートで、これが上昇するとその後に金融危機となる可能性がある。これは実効為替レートがファンディメンタルズを反映しており、過剰な上昇はその国が過剰評価されている確率が高いと考えると分かりやすいだろう。次に輸出の急減、通貨量の増大、外貨準備高の減少などが続く。肝心なことはリスクにさらされている新興国ですら、代表的なマクロ経済の指標を全て合わせても危機を予測できる確率は低いことだ。

当たり前だが通貨が急激に高くなっても、輸出が急減しても必ずしも危機につながるわけではない。例えば政治的な理由で危機のトリガーが引かれる場合もあり、そのようなケースは原理的に予測することが極めて難しい。よく「予言の自己実現」といわれるように危機が起こるとみんなが思えば実際に危機がおこる。根拠なしに「日本はもうすぐ破綻する」などというのは流言の類で国益を損ねていると言っても過言ではない。

もちろん、以上をもって「日本は大丈夫だ!」などと無責任なことを言うつもりは毛頭ない。イギリスとアメリカの事例を引用したが、現在の日本とは社会状況も人口動態も全く異なる。むしろ私は日本の状況に強い危機感を持っており、一日も早く持続可能な体制に移行する計画を立て、実行しなければならないと考えている。多くの方が言うように、タイミングはともかくプライマリーバランスは黒字化しなければならない(GDP成長率と実質利子率が等しいと仮定)。

ここで私が申し上げたいのは2つ。ひとつは国家の財政破綻というのは非常に複雑な要因で起こり、決してGDP比の公債残高だけに依存するものではない。「日本は“必ず”破綻する」「日本は“実質“破綻」というのは実証データからは根拠の無い主張である(直感に従ってそう信じるのはもちろん個人の自由だ)。もうひとつは気長に考えることが必要だということだ。仮に政治改革が行われ債務残高が減少サイクルに入ったとしてもこれだけつみあがった公的債務を“まともに”返そうとすれば少なくとも何十年、場合によっては100年以上かかるだろう。


授業でイギリスの公債残高のグラフをみて、「これは面白い」と思ったのでついでに普段考えていることをまとめてみました。

↓もし面白かったらクリックお願いします(1日1回まで有効)

人気ブログランキングへ

|

« 「100年安心プラン」の現在 | トップページ | 覚えの無い取引 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「100年安心プラン」の現在 | トップページ | 覚えの無い取引 »